開拓文学の最高峰
北海道開拓を学ぶ最良テキスト
著作権法は51条で「著作権は、著作者の死後七十年を経過するまでの間、存続する」としています。70年以上を経過した著作物は、もちろん原著者の著作者人格権を踏まえた上で自由に利用できます。日本でも「青空文庫」では著作権保護期間がすぎた古典をウエブ上で公開しています。
明治大正昭和初期の開拓期、北海道でも開拓をテーマにしたすぐれた文学作品が数多く書かれました。しかし、開拓の排斥がすすむ今、小林多喜二など一握りのプロレタリア文学作品を除けば、まったく顧みられなくなりました。
文学者の目で描かれた北海道は、歴史資料とは違ったかたちで開拓の姿を私たちに教えてくれます。【北海道開拓倶楽部】では「開拓文庫」として著作権保護期間を過ぎた開拓をテーマにした文学作品を紹介していきます。
「開拓文庫」の最初は辻村もと子の『馬追原野』です。
作者の辻村もと子は、明治39(1906)年2月に今の岩見沢市志文に生まれました。昭和17(1942)年に父直四郎をモデルにした『馬追平原』を表し、19年には第1回樋口一葉賞を受賞しています。昭和21(1946)年に亡くなり、今年は没後74年になります。
北海道の開拓期の文学と言えば、小林多喜二の『不在地主』などのプロレタリア文学が知られますが、無産主義運動の普及のために階級対立をことさら強調しているために実情を反映したものとは言えません。
『馬追原野』は、そうした政治的な背景もなく、生まれ育った故郷、尊敬する父と言った身近な素材を、感受性の鋭い女流作家の目で表した等身大の北海道ということができます。明治中期の北海道や開拓制度についての解説も多く、負の側面も含め、北海道開拓を学ぶテキストとしては最適なものです。
まずプロローグとして『馬追原野』のモデルであり、作者次村もと子の父である辻村直四郎について簡単に紹介しましょう。その後、原則として週1回連載していきます。