北海道の歴史・開拓の人と物語

北海道開拓倶楽部

 
 

北海道150年事業
それは北海道開拓の葬式だった

 


2018年 北海道150年 記念事業④

開拓顕彰を求めた道民の声は無視された

 

北海道が、戦争にも等しいコロナ禍の耐え凌ぎ、再生を図ろうとするとき、今以上の困難に打ち克った先人の開拓者精神が支えになることはまちがいありません。そうであれば、一昨年の「北海道150年」が北海道開拓の歴史をまったく排除して行われたことが悔やまれてなりません。この方針はどこから来たのでしょうか。道民が望んだものでしょうか。記念事業の基本方針を策定するにあたって北海道はアンケート調査をしました。調査結果をテキストマイニングツールで分析しました。驚くべき結果が出ました。

 

■北海道150年基本方針は「未来指向」

北海道は「北海道150年記念事業」を行うにあたって平成28(2016)年6月11日~10月19日までウェブ上で「基本的な考え方や事業内容など、基本方針の検討に活用するため」に「アンケート調査」を行いました。そこには120件の意見が寄せられました。[1]
 
ちなみ平成28(2016)年10月に発表された『北海道150年事業基本方針』の「基本姿勢」は
 

・未来志向「世界の中の北海道」の視点で未来の姿を見据えます。
・価値創造北海道の可能性を見つめ直し、新しい価値をつくります。
・道民一体北海道を愛する多くの皆さんの参加により、北の大地北海道を盛り上げます。[2]

 
というもので「未来指向」を強く打ち出したものでした。
 

■アンケートをテキストマイニングで分析する

では、アンケートに寄せられた道民意見ははたして「歴史」より「未来」を求めるものだったのでしょうか。

 

道民アンケートキーワード
頻出回数集計(参照①)

前回の投稿で知事の所信表明をテキストマイニングツールを用いて分析しましたが、同じ事をこのパブリックコメントに対して行ってみました。結果は驚くべきものでした。
 
「未来指向」という理念とは裏腹に、「北海道150年」を通して顕彰してもらいたいことと上げられたものは「歴史」(98回)であり、なかでも「開拓」(82回)でした。(右表参照)
 
『北海道150年事業』のシンボルとされた松浦武四郎は7回、知事が繰り返し強調した「アイヌと縄文」のうち「縄文」は6回しか出現していません。
 

図1道民アンケート対応分析
(クリック拡大)(参照②)

これらキーワードをテキストマイニングツールによってワード間の相関関係を示すと図1となります。AIによるものではありますが、アンケートに示された道民意見は「北海道開拓の歴史を中心として自己認識を深め、そこから未来を展望しよう」といものだったことがわかります。
 

■無視された道民意見

アンケート結果は平成28(2016)年10月19日の「第3回北海道150年道民検討会議」に示されました。アンケートとは別に「基本方針」が「案」としてこの場に示され、特に議論もなく了承され、正規の「基本方針」となりました。
 
「基本方針の検討に活用するため」として行われたアンケートも、この場にさらされましたが、事務局が
 
(岩崎北海道150年事業準備室長(事務局:北海道)
4ページから7ページにかけて、各事業の実施主体や事業費の考え方のほか、取組の例を記載しております。これまでの会議でのご議論や、アンケート調査でいただいたご意見、これは【参考資料2】にまとめておりますが、これらについては、今後、各主体が、事業の企画検討の際に参考とされることとなります。[3]
 
とのみ言及しただけで、「基本方針の検討」にはまったく活用されませんでした。かくして行われたのは「開拓」という言葉を一切排除した記念事業です。
 

【参照リンク】

次の世代に伝えたいもの(こと)

 
下記に「アンケート調査」の「次の世代に伝えたいもの(こと)」から代表的なものを再録します。
 
◆北海道がここまで発展できたのは、先住民族のアイヌの方々が大自然を守ってきたことと原生林を切り開き肥沃な大地に開墾した、全国から入植された開拓者の努力あってのものであることを、再確認するための歴史を残していきたい。
 
◆北海道にはアイヌという先住民族がいたこと。後から北海道に入ってきた和人とアイヌとの争いの事実。明治になって北海道を開拓した時の中心人物は薩摩藩出身者であったこと。北海道開拓では、目先ではなく、先を見て人を育てることに力を入れていたこと。
 
◆開拓精神、進取の気象、自主自立心が喪失していると感じます。北海道開拓時代の何人もの偉人の働きを読本(とくほん)としてまとめ、小中学生に対する教材としたり、全集図書にして一般頒布できればよいと思います。・北海道の持つ可能性。素晴らしさ。
 
◆北海道の歴史や文化、先人たちの思いや郷土愛など
 
◆過去・現在まで先住民族が住み、蝦夷地の積雪寒冷地で生き抜いてきた先人の知恵と努力を継承しながら、北海道の豊かな自然環境と、国内ばかりではなく特にアジア地域から見えるお客様が一応に絶賛する道産材を使用した農業産品や食品開発の労苦など。
 
◆先人たちの苦労・知恵・努力(偉人だけではなく、普通の道民をクローズアップしてほしい)、先人たちが考えていた北海道の可能性
 
◆フロンティアスピリット、ポジティブなところを、後世に伝えたい。
 
◆満州、樺太などから引き上げてきた方々や開拓農家の歴史
 
◆北海道の入植時の歴史
 
◆開拓の精神の重要性、「困難があるからこそ、その先に幸福がある。」の一言
 
◆開拓の歴史の伴う先人の労苦は伝え続ける必要があると思います。
 
◆世界の中の北海道という意識が重要。グローバルな視点をもつことが大切。北海道開拓の歴史をしっかり学び道産子アイデンティティーを確立してほしい。
 
◆北海道の開拓時の苦労や開拓後の主要産業(漁業・農業・炭鉱等)の栄枯盛衰の状況。
 
◆この150年間で北海道ほど成長を遂げた地域は先進国にありません。それは言うまでもなく、開拓精神と開拓者の尽力の賜物です。この誇るべき実績を踏まえ今後飛躍させる必要があります。
 
◆先人の苦労と努力、生活と産業、文化の歴史。次世代に向けた標題となるもの、あるいは新たな産業の参考となる今昔の歴史。
 
◆北海道150年以前の古代の人々や先住民族の歴史、文化、その上に「近代」日本を支えてきた北海道開発の歴史、150年の間に築かれてきた産業・文化・生活の遺産
 
◆北海道開拓や高度成長期など明治時代以降の北海道の発展の歴史・文化を後世に伝えるべきです。また、黒田清隆をはじめ多くの他都府県の人材の貢献を改めてクローズアップさせることが必要です。
 
◆明治の初め以来、青森県から沖縄県までの46都府県から3百万人を超える多くの人々が北海道に移住し、今日の179市町村の礎を築いた歴史は、国内の歴史上他に例がない。今年北海道新幹線が開業しさらに札幌まで延伸されようというこの時期に、これら開拓・移住者の歴史を今一度市民目線で掘り起し、北海道の観光振興などに繋げると共に、本州との絆を道民の貴重な財産として継承することを次世代に伝えたい。
 
◆やはり「北海道の正しい歴史」と「先人(ご先祖様)の思い、苦労」です。自分のルーツを知ることは、ご先祖様への感謝の念を感じ、故郷への愛着と誇りにつながります。その土地が繁栄するには住民の意識こそが重要ですので、地方創生には重要なエネルギー源となります。
 
◆明治18(1885)年に北海道に屯田兵が常駐したことによって、土地の人々も参加して、樹木の伐採と開墾が進められた。その労苦は大変な事だった思います。北海道開拓150年目を機に、若い人たちが歴史的史実を知ることが未来の北海道の発展につながることと思います。[4]
 


【引用典】
[1]【参考資料2】アンケート調査の実施状況(H28.10.14現在) 北海道公式サイト > 総合政策部 > 総務課 >  北海道150年道民検討会議
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/sum/sho/douminkentoukaigi.htm
[2]『北海道 150 年事業 基本方針(案)』北海道公式サイト > 総合政策部 > 総務課 >  北海道150年道民検討会議 www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/sum/sho/douminkentoukaigi.htm
[3]第3回北海道 150 年道民検討会議 議事録 北海道公式サイト > 総合政策部 > 総務課 >  北海道150年道民検討会議 www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/sum/sho/douminkentoukaigi.htm
[1]【参考資料2】アンケート調査の実施状況(H28.10.14現在) 北海道公式サイト > 総合政策部 > 総務課 >  北海道150年道民検討会議
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/sum/sho/douminkentoukaigi.htm
 
①②テキストマイニングツール「KH Coder」https://khcoder.net による

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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