北海道の歴史・開拓の人と物語

北海道開拓倶楽部

 

              

建物が物語る地域の歴史を守る

NPO法人旧丹波屋旅館保存活用プロジェクト 
事務局長 杉山 友和さん

 

 

旧丹波屋旅館は、道北の中頓別町小頓別地区にある築100年を越える和洋混合の旅館で、国登録文化財に指定されています。大正3(1914)年の天北線開通と共に建てられ、平成元(1989)年の廃線ととも役割を終えました。鉄道とともに発達した小頓別市街の歴史と共に歩んだ建物です。この建物も老朽化が進み一時は解体の危機にありましたが、地域の人たちが保存会をつくって建物と建物が象徴する地域の歴史を守っています。保存調査のためのクラウドファンディングを立ちあげたNPO法人旧丹波屋旅館保存活用プロジェクトの杉山友和事務局長に話を伺いました。
 

 

■小頓別の開拓の始まりについて教えてください。

町史からですが、中頓別の開拓は明治37(1904)年に楢原民之助が単身で入植したのが始まりです。そのご殖民区画が解放となって明治40(1907)年から頓別川に沿って入植者が入り始めました。大正3(1914)年の旧天北線建設とともに小頓別に駅ができ、幌別、枝幸方面と道央を結ぶ交通の拠点として発展しました。小頓別は、浜頓別、中頓別と並ぶ市街で、道路の両側にはずらりと民家や商店が並んでいました。平成元(1989)年に天北線が廃止となり、商店が一つづつ消えていき、丹波屋旅館が残されたかたちです。
 

 

■丹波屋旅館はどのように開業したのでしょうか?

大正3(1914)年11月に旧天北線「小頓別駅」が開業し、その開業に合わせて何件かの和館が建築されました。大正期の古地図と建物の一つを照らし合わせると、現在の「旧丹波屋旅館」の位置に「松尾旅館小頓別支店」の記載がありますので、和館部分は当初「松尾旅館小頓別支店」として使用されていたと推測しています。当時の詳しいことは伝わってなく、町史からしか知ることができませんが、鉄道の開業に合わせ、多くの人で賑わったと伝わっています。大正5(1916)年に松尾旅館は、旧天北線の延伸に伴う中頓別駅開業で中頓別市街へ移ったようです。その空いた建物を小頓別で旅館を営業していた菅井鐵之助が引き取って大正5(1916)年から「菅井旅館」となりました。
 

昭和初期の小頓別
奥に丹波屋旅館(当時は菅井旅館)が見える
(出典:中頓別町郷土資料館)

 

■洋館部分が印象的ですね。

洋館部分は昭和2〜3年頃の増築で、北に向かう皇族の休憩所として建築されたとの逸話があります。洋館の3階部分には、皇族の方のために特別に設えられた、明らかに他の客室とは違う漆喰塗りの部屋があり、この旧丹波屋旅館の一番の特徴となっています。和館部分は100年以上、洋館部分もまもなく築100年を迎えますが、道北地区で築100年に達する古建築はほとんどありません。その意味でも貴重です。平成12(2000)年には国の登録有形文化財登録になりました。
 

 

洋館3階の漆喰壁の部屋
(出典:NPO法人旧丹波屋旅館保存活用プロジェクト公式サイト)

 

■丹波屋になったのはいつ頃でしょうか?

昭和43(1968)年です。経営者の変更に伴いに「菅井旅館」から「丹波屋旅館」になりました。「丹波屋」は、経営者の出身地に因んで名付けられたと聞いています。「旧丹波屋旅館」では結婚式なども行われていたようで、学校の先生方が歓送迎会の場など、旅館としてのほか地域の集会場としても利用されていました。
 

 

 

■いつまで使われていたのですか?

国鉄の合理化により天北線が平成元(1989)年に廃線を迎え、それに伴い旅館としての営業を終了しました。その後、前経営者から建物を引き継いだ岡崎さんが個人宅として使用されていました。しかし、建物は大きく老朽化も進んで維持にとても苦労されておりました。個人での維持が困難になったとき、中頓別町の町議で小頓別の酪農家の星川三喜男さんが先頭に立ち、建物の保存を目的として町内の有志を中心に「旧丹波屋旅館保存会」を立ち上げました。
 

 

■そこからクラウドファンディングになったんですね?

「旧丹波屋旅館保存会」として活動を続ける中、岡崎さんが個人として建物を維持していくことが困難となり、建物の解体という話も出てきました。中頓別町への寄付も検討されましたが、町として建物の保存に協力しても、寄付として受け取ることはできないという結論になりました。その流れから、町の協力のもと令和2(2020)年に当NPO法人を設立し、岡﨑さんから土地・建物を寄付していただき、当NPO法人が保存を目指していくかたちとなりました。建物の保存活用には建物の改修が必須です。改修のためには、まずは建物の詳細調査・耐震診断が必要となります。そのための費用を捻出するためにクラウドファンディングを利用させていただきました。会員の方々の会費で毎年どうにか建物を維持しておりますが、建物の調査等に充てる十分な費用がなかったからです。
 

 

■杉山さんはどのようにして関わる事になったんですか?

私は中頓別の生まれで小中学校まで暮らしていました。小頓別には母の実家があって小さな頃からよく行っていました。実はその頃、丹波屋旅館のことは覚えていないんです。当時は小頓別には多くの建物がありましたから。札幌で建築の仕事をするようになってから、古建築に興味を持ち、ヘリテージマネージャー養成講座を受けたこともあります。実家への行き帰りには小頓別を通りますから、良い建物だなと見ていたんです。保存会を立ちあげた星川さんの家と母の実家が近所だったことあって、「何かできることがあれば声を掛けてください」と話していたのです。
 

 

■建物の状況はどうでしょうか?

建物に使用されている材料や建物の造りはお世辞にも立派なものではないので、100年も経つと確実に老朽化が進みます。現在建物が使用されていないことも老朽化に拍車をかけています。洋館部分の傾きが一番の問題で、調査の結果、土台の腐りが原因とわかりました。比較的状態の良い和館部分も洋館の傾きに引っ張られるように影響を受けています。
 

■今後の取り組みについて伺います。

クラウドファンディングには、全国の皆様からご支援を頂戴して成立となり、調査費及び耐震診断費を確保することができました。これを受けて昨年度末までに調査・耐震診断を終了しましたが、予想通り、建物に耐震性はほとんど無いという状況です。今後は今回のクラウドファンディングで実施できた調査・耐震診断結果をもとに、建物の耐震性を満たすための改修設計(構造補強など)を行い、改修工事費の見積りを行う予定です。改修工事費は多大な費用になることは予想されますが、建物を保存するためにはこれだけの費用が必要だということを明確にし、今後の保存活用の方向性を検討していきたいと考えています。
 

■活動を通じて、みなさまの志に賛同したいろいろな出会いがあったと思います。

普段のNPO活動やクラウドファンディングにて、本当にご支援をいただいた皆様の旧丹波屋旅館保存に対する思いを強く感じております。昔、小頓別に住んでいた方や、丹波屋旅館に泊まったことがあるという方、またはクラウドファンディングを通じて初めてこの建物を知ったという方からも熱い応援の言葉をいただき、私達の活動の力となっております。
 

■建物の活用法をいろいろと考えておられるようですが?

保存と活用はセットで考えています。保存するだけではダメで、その後の活用方法も含めて検討が必須です。活用方法についてはいろいろみなさまから意見をいただいています。小頓別地区のコミュニティーセンターや資料館、カフェ、簡易宿所、ギャラリー、間貸しスペースなどの案があります。交通の分岐点にある建物として道の駅のような使い方ができればありがたいですね。
 

■郷里の歴史を尊ぶこと、次代に繋げることの意義をうかがいます。

郷里の歴史を尊ぶというと大袈裟かもしれませんが、小頓別地区周辺は明治44(1911)年から開拓が始まったわけですが、約100年の間に隆盛から衰退へいたり、現在地区は消滅の危機を迎えています。それでも小頓別には小頓別のさまざまな物語があります。それはこの地区の歴史であります。地区の始まりから現在まで残ってきた「旧丹波屋旅館」は、この地区の歴史を物語る存在として、町内外の人々の交流の起点になれないかと考えています。そのような活動を展開していく中で、次世代に繋げることが出来たら最高かと思います。
 

■読者のみなさんへメッセージをお願いします。

これまでNPO会員の皆様、ご寄付いただいた皆様、昨年のクラウドファンディングを通じてご支援いただきました皆様など、多くの皆様にお力添えをいただき、本当に感謝しかございません。皆様から「旧丹波屋旅館」を残してほしいというお声をたくさんいただきました。現状安全性の面から内部公開をしていない建物の保存活用には、前述したとおり建物改修工事が必須で、それには多大な費用が必要となります。その費用を集めることはとても困難が伴います。最終的にはどのような結果になるかわかりませんが、これからも一歩ずつ建物の保存活用を検討して参りますので、皆様にもお気にかけていただけますと幸いです。
 

 

「あなたの丹波屋コンテスト2024」

国登録有形文化財「旧丹波屋旅館和館・洋館」を対象とした写真、写生作品、造形作品のコンテストです。受賞者には「切符型のコンテスト記念証」と「旧丹波屋旅館オリジナルグッズ」を贈呈いたします。
 

応募期間:2024年8月9日(金)~ 2024年12月31日(火)
問い合わせ:下段のNPO法人旧丹波屋旅館保存活用プロジェクトの問合せ先へ

 

NPO法人旧丹波屋旅館保存活用プロジェクト

 
平成25(2013)年に地元有志によって設立された「旧丹波屋旅館保存会」を母体に、本格的な建物の保存活用を進めるため令和2年8月に設立されました。保存のための調査費用を捻出するため23年9月にクラウドファンディング「北海道中頓別町・築100年の登録有形文化財『旧丹波屋旅館』を未来へ」プロジェクトを立ちあげ、目標350万円のところ50日間で403万5000の寄付を集めました。これをうけて11月22日より3D計測装置を用いた建物スキャン調査などの調査を実施。建物の維持管理と将来の保存に向けた取り組みを行っています。
 

住所:〒098-5102 北海道枝幸郡中頓別町字小頓別91番地1
Tel&Fax:01634-7-8423 (星川) または TEL&FAX:011-557-7557 (アーカイヴ内)
E-mal:9tanbaya@gmail.com
クラウドファンディングページ:https://readyfor.jp/projects/9tanbaya
団体URL:https://www.kyutanbaya.jp/top/

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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