北海道の歴史・開拓の人と物語

北海道開拓倶楽部

 

 

設計者・井口健 北海道百年記念塔を語る ⑤

コルテン鋼

選ばれるべくして選ばれた建材

  
 

■百年記念塔の外装には耐候性高張力鋼、通称コルテン鋼という特殊な鋼材が使われていると聞きます。どのように知ったんですか?

僕のいた久米建築事務所ではさまざまな建築雑誌を取っていたんですが、昭和35年頃、アメリカの建築雑誌『FORŪМ』に載っていたアメリカの農機具会社ディア・カンパニー(本社アメリカ・イリノイ州、ジョン・ディアトラクターで知られる)の本社ビルの特集で知ったのが最初です。
 

ディア・カンパニー本社①

 

ディア・カンパニー本社
イリノイ州モーリンにある。サーリネンの死後、1964年に完成②

 
エーロ・サーリネンという建築家が設計しました。フィンランドの人ですが、米国に帰化してケネディ国際空港のターミナルビルを設計したことで知られています。
 
このことが頭に残っていて、コンペに臨むに当たってスレンレスだとか、アルミだとか、鋳物だとか、いろいろ考えましたが、一番よいのはコルテン綱だと早くに判断しました。
 

■特殊な鋼材だと聞きますが、設計に取り入れるためどうしたんですか?

コルテン鋼はアメリカのUSスチールが開発したものです。富士製鐵(現:日本製鉄)がパテント契約を結んでおり、「フジコルテン」という製品名で販売していました。
 

山口県・須佐大橋
橋梁部にコルテン綱が用いられている③

 
当時は流行りの素材で、建物にはあまり使われていなかったんですが、橋梁など土木の分野ではかなり使われていたんです。新幹線の路線にも使われていたはずです。北海道では小樽の土木工事で使われていたことを知っていました。
 
私は久米建築の札幌事務所にいましたから、富士製鐵の営業マンを呼んで話を聞いたんですが、地元の営業マンでは話にならない。富士製鐵の本社に電話して資料を取り寄せました。
 

■コルテン鋼のどこに魅力を感じたんですか?

資料の中には暴露試験のカラー写真が載っていました。鋼材を野天に放置して5年・10年と変化を見るもので、初めの黄色いサビからはじまって時間とともに熟成し黒褐色になる。この錆が酸化皮膜となって特殊な錆び止め効果を生む。この性質が
北海道百年」のテーマである「風雪100年輝く未来」にふさわしいと一層確信したんです。
 

錆の経年変化
05年から40年まで④

 
しかも、コルテン鋼は富士製鐵の室蘭製鐵所で作られていました。当時の町村知事は、地元産業の育成ということに力を入れられていましたから、室蘭でつくられた鉄を使うということは知事の意思にも合致している。これしかないと思いましたね。
 

■コルテン鋼の錆止め効果とは?

コルテン鋼は錆がある程度すすむとそれ以上腐食が進まなくなるんです。このグラフを見てください。赤い線がコルテン鋼ですが、2年目当たりから腐食が進まなくなる。この錆が酸化膜となって内部を腐食から護るんです。仕上材としても構造体としても一体で使える。記念塔は百年持たせることが条件でしたから、この特性も採用した理由です。
 

コルテン綱(赤線)の耐候性試験例⑤

 

■コルテン鋼がよいだろうと調べると、室蘭で作られた道産材だった。錆が被膜となって長期間塔が守られる。なるほどコルテン鋼はうってつけの素材ですね。

いろんな出会いが重なって宿命的なものを感じますね。横道にそれるけども、僕は昭和13年生まれなんです。 宮の森に北海道開拓神社という神社がありますね。 これは北海道の70周年記念に主に拓銀が主体となって創建した神社で、 北海道開拓功労者が祀られていますよ。この神社が創られたのが昭和13年、僕の生まれた年なんです。
 
僕が1級建築士の免許を取ったのは北海道百年塔コンペの半年前なんですよ。 前年の12月に1級建築士の合格の免状もらいました。コンペの応募資格が1級建築士ですから、 コンペの応募資格を得たのはコンペの直前です。 そして僕はたまたま道庁の設計建設に携わっていた。北海道庁の工事現場に100年記念等のコンペのポスターが貼られているのを見て、登録したわけですが、それも偶然と言えば偶然です。いろいろな偶然が重なり、なるくべくしてこの塔になったように思います。
 

 

百年記念塔の経年変化
建設中から2010年まで⑥

 

■北海道百年という記念すべき年に、先生の作品が選ばれるべくして選ばれたんですね。ところで、今コルテン鋼を使った建物はあまり見られませんが?

当時は大きな建物にもずいぶん使われたんですよ。今ではほとんど残っていませんね。コルテン綱の錆が酸化皮膜となって落ち着くまで、錆がよだれみたいに流れてとても見苦しくなってしまうことがあるんですね。
 
これは1976年に建てられた東京の夢の島総合体育館で、屋根にコルテン鋼が使われていまますが、錆が大きな問題となりました。コルテン鋼の性質を理解して正しく使えばなんら問題はないんですが、この錆が嫌われ使われることがなくなっていったんです。今、日本で残っているのは百年記念塔くらいです。貴重なものです。
 

夢の島総合体育館
現在は体育館としては使われていない⑥

 
建物には使われなくなりましたが、すぐれた建材ですから、コルテン鋼は今も橋梁などには盛んに使われています。北海道百年記念塔で日本製鉄はずいぶん宣伝になったと思いますよ。百年記念塔に維持管理にお金がかかることが問題になら、日本製鉄に補助金を出してほしいくらいです(笑)
 

 


【引用出典】
① https://www.enjoyillinois.com/explore/listing/deere-and-company-world-headquarters
② http://johndeereworldheadquarters.blogspot.com/2015/
③④⑤ 日本製鉄株式会社『CORーTEN』2019
⑥  坂倉建築研究所公式サイト http://www.sakakura.co.jp/info/works/1971-1980/188/

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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