北海道の歴史・開拓の人と物語

北海道開拓倶楽部

北海道開拓の先駆者 プロローグ 

相互に尊重する多文化主義に向けて

 

私たちは誇りある北海道開拓者の子孫です──と今、口に出しにくい背景には、アイヌ民族と開拓の過去の不幸な関わりを意識するために他なりません。アイヌ民族の差別解消、民族としての復興はもちろん重要な取り組みです。一方で道内人口は約533万人、そのうちアイヌ民族の道内人口は約1万7000人。北海道開発庁が設置され、「開拓」から「開発」の時代になった1950年の道内人口は429万でしたから、数百万人という単位で北海道開拓にルーツをもつ道産子が居住しています。少数派の権利を尊重しなければならないのは当然ですが、だからといって多数派を犠牲にしては、全体が立ち行かなくなります。アイヌ民族と開拓が両立する多文化社会がゴールとなる民族共存のあり方を考えます。
 

 

道産子としての民族意識をどうしていくのか

 北海道の中でアイヌ民族と開拓者の子孫である道産子は、どのように共存していけば良いのか。ヒントになるアイヌの方の発言があります。『イランカラプテ アイヌ民族を知っていますか?』(2017・明石書店)に掲載された阿寒アイヌ工芸共同組合専務理事・秋辺日出男氏の発言です。まずは耳を傾けましょう。
 

 北海道の日本民族はどうしてくれるんだと思います。要するにアイヌ以外です。私はアイヌのことを教えていただいて、理解してほしいけど、アイヌはアイヌでガリガリの民族教育をするでしょう。それはいいですが、道産子としての民族意識をどうしていくのかっていうのが、みなさんの方にかかってくる部分が大きいんですね。
 道産子としての誇りを持つためには、地域に誇りを持たなくちゃいけない。何もシャケとかじゃがいもとかトウモロコシがうまいから、それだけで立派な道産子かと言うとそうじゃないですよね。自分たちの郷土の歴史がわかって、特色がわかっていて、違いが分かっていて、それでこそ「おらが北海道はすげぇんだ」「アイヌモいるんだ」「開拓もあったんだ」「いろいろな歴史的な問題はあったけど、今はこうやって一緒にやっているんだ」ということを言えるようになるんです。それが、地域でそういったものを教えてくれない。
 バランスのとれた中での民族教育と言いますか。地域教育ができないと、非常にみなさんお困りになるだろうというふうに思います。

 
 道産子としての民族意識をどうしていくのか──というアイヌ民族からの呼びかけに応えるべく、このサイトはつくられました。
 

私たちは「間拓者が悪い」なんて一言も言っていません

 同じ『イランカラプテ アイヌ民族を知っていますか?』からもう一人、北海道ウタリ協会副理事長・安倍ユポ氏の発言です。
 

「俺たちの先祖はお前たちをいじめったって。ふざけるな」と言う。そうですか? 私たちは「間拓者が悪い」なんて一言も言っていません開拓者とアイヌ民族は仲良くしてきたんですよ。北海道に開拓に来た日本人の中には、「とても暮らせない」と言って、本州に帰った人がたくさんいます。子どもを連れて帰ることができなくて、アイヌの家の前に捨てていった日本人もたくさんいます。どれだけアイヌが、その子どもたちを育てましたか。私たちの会員規則の中には、① アイヌの血を引くこと、②婚姻関係であるもの、③アイヌの養子として育てられたこと、とあります。これが私たちの仲間です。私たちの誰が開拓者のことを言いましたか、国家が何をしたかと言っているんですよ。

 
 安倍ユポ氏の「開拓者とアイヌ民族は仲良くしてきた」「私たちの誰が開拓者のことを言いましたか。国家が何をしたかと言っているんですよ」という発言、これがアイヌ民族と開拓者の子孫である私たち道産子をつなぐ橋になるように思います。
 

「開拓」と言えばアイヌ民族を無視した言葉となる

 一方、これは今、北海道の全小中学校の全生徒に配布されている副読本『アイヌ民族:歴史と現在 教師用指導書』の37Pにる「用語」の一節です。
 

 「開拓」と「開基」
 「開拓」とは「未開」の大地を切り開くこと。北海道「開拓」と言えば、先住民族であるアイヌ民族の存在を無視した言葉となる。同様に「開基」〇〇年という言葉がある。北海道の市・町・村に和人が入植した年、あるいは和人の集落ができた年から、年数を数えたものである。ここにも、先住民族の視点が欠如している。そのため、現在、市制施行〇〇年という言い方に変えている自治体が増えている。

 
 北海道の学校では「開拓=アイヌ民族否定」なのです。秋辺氏、安倍氏という二人のアイヌの方の発言との違いはどこから来ているのでしょうか。
 

どちらかが勝てばどちらかが必ず負けるゲーム

 参加者全員の得点の合計が常にゼロになるゲームをゼロサムゲームといいます。一方が加点すると他方は必ず失点するゲームです。不幸なことに今、アイヌと開拓はゼロサムゲームになっています。
 2019年4月、「アイヌ新法」(アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律)が成立しました。アイヌ民族を先住民族として初めて法律として認められた一方、この年、野幌の「北海道百年記念塔」の解体撤去が決まったことは、アイヌ民族と開拓の間がゼロサムゲームになっている具体的な現れです。
 ゼロサムゲームはどちらかが勝てばどちらかが必ず負ける、WIN&WINが決して起こらないゲームです。アイヌ民族の復興はこれからも進むでしょうし、進めていかなければなりませんが、アイヌと開拓のゼロサムゲームが続けば、開拓者の子孫である「道産子としての民族意識」は、ますます否定されていきます。
 

それぞれの民族の歴史や文化を相互に尊重する多文化主義

 北海道アイヌ協会は公式ホームページでこう述べています。
 

 和人とアイヌの不幸な過去の歴史を乗り越え、それぞれの民族の歴史や文化を相互に尊重する多文化主義の実践や人種主義の根絶は、人権思想を根付かせ発展させようとする国連システムの取り組みに符合します。日本のアイヌ民族についてもこれからの取り組みが大切です。

 「それぞれの民族の歴史や文化を相互に尊重する多文化主義」の中には、私たちの父祖の歴史や文化も入っていなければなりません。一方の民族の歴史と文化を尊重するためには、他方の民族の歴史や文化は必ず否定されなければならない──こうした考えでは決して多文化主義が到来しないことは明らかです。
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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